私は死んだ母が最後に书いてよこした手纸の言叶を、今もはっきり覚えている。それは、――今度のお前の下宿からは富士が见えるのだろうか、东京から富士が见えるということはお母さんもかねて闻いていたけれど、あの美しい富士の山を毎日见てすごすことができれば、どんなにお前の心もなごまることだろう。お母さんも一度は富士を见て死にたいと思っていたが、そのお母さんの思いがお前にかなえられたのだと思うと、お前のくれた手纸に富士见轩と书いてあるのをみつめているうちにお母さんは涙がこぼれてきたのだよ…といった言叶であった。