本郷の高台に高くそびえたった図书馆のその屋上からは、富士ばかりでなく、赤城や、榛名や、秩父の山々など、関东平野を远くとりまく山々が见えるのだったが、そも、冬の日差しをあびた富士の姿の美しさには及びもつかなかった。私はその美しい富士を见ながら、母の乳房の匂いともつれあうように、母に富士の山の美しさを教えられた幼いころのことを思い出した。そして、母の手纸を読んだ时と同じように目がしらがあつくなってゆくのを感じた。